BOUNDARY ART / SCIENTIFIC NOTE
7回膜貫通型受容体について知る
膜タンパク質の基本から、Gタンパク質共役受容体(GPCR)の構造と情報伝達まで。 このページでは、作品解釈ではなく生物学的事項だけを扱う。
01 / CELL MEMBRANE
まず、細胞膜とは何か
細胞膜は、主としてリン脂質二重層からなる薄い境界である。 リン脂質には、水になじみやすい親水性部分と、水を避ける疎水性部分がある。 水中では親水性部分を外側へ、疎水性部分を内側へ向けて二重層をつくる。
この膜は単なる袋ではない。物質の出入り、細胞同士の認識、接着、情報受容などを担う。 その多くを実行しているのが、膜に存在する膜タンパク質である。
02 / MEMBRANE PROTEIN
膜タンパク質とは何か
膜タンパク質は、細胞膜または細胞内小器官の膜に存在するタンパク質の総称である。 膜との結びつき方により、主に次のように分類される。
| 種類 | 膜との関係 | 代表的な役割 |
|---|---|---|
| 膜貫通タンパク質 | 脂質二重層を一回または複数回横切る | 受容体、チャネル、輸送体、酵素 |
| 表在性膜タンパク質 | 膜表面や他の膜タンパク質に非共有結合で結合する | 情報伝達、細胞骨格との連結 |
| 脂質アンカー型タンパク質 | 共有結合した脂質を膜へ差し込んで固定される | シグナル伝達、細胞認識 |
膜内部は疎水性であるため、そこを横切る部分には疎水性アミノ酸が多い。 多くの膜貫通部分はαヘリックスを形成し、 一般に約20残基前後の疎水性配列が膜を横断する。
03 / SEVEN TRANSMEMBRANE HELICES
「7回膜貫通」とは何を意味するのか
一つのポリペプチド鎖が、細胞膜を7回横切る構造をもつことを意味する。 GPCRでは、その7本の膜貫通αヘリックスをTM1からTM7と呼ぶ。 N末端は細胞外側、C末端は細胞質側に位置し、三つの細胞外ループと三つの細胞内ループが各ヘリックスをつなぐ。
04 / ACTIVATION
GPCRはどのように情報を伝えるのか
細胞外側からリガンドが結合すると、GPCRの立体構造が変化する。 とくに細胞質側のヘリックス配置が変わり、三量体Gタンパク質と結合しやすくなる。
受容体はGαサブユニット上のGDPをGTPへ交換させる働きを促進する。 活性化されたGαとGβγは、それぞれ酵素やイオンチャネルなどの標的を調節する。 その結果、細胞内でセカンドメッセンジャーの増減や電気的応答が起こる。
05 / SIGNAL DIVERSITY
一つの構造から、多様な信号が生まれる
GPCRは共通する7回膜貫通構造をもつ一方、受け取る刺激と下流の応答は非常に多様である。 光、匂い、味、神経伝達物質、ホルモン、脂質性メディエーターなどがリガンドになりうる。
主要なGαサブユニット群
| 群 | 代表的な作用 |
|---|---|
| Gs | アデニル酸シクラーゼを活性化し、cAMPを増加させる。 |
| Gi/o | アデニル酸シクラーゼを抑制し、cAMPを減少させることが多い。 |
| Gq/11 | ホスホリパーゼCβを活性化し、IP₃・DAG経路を作動させる。 |
| G12/13 | Rhoファミリーを介して細胞骨格や細胞形態を調節する。 |
また、活性化されたGPCRはリン酸化され、βアレスチンと結合することがある。 βアレスチンはGタンパク質を介する信号を弱めるだけでなく、 受容体の細胞内移行や別系統の情報伝達にも関与する。
06 / EXAMPLES
代表的なGPCR
- アドレナリン受容体:心拍、血管、気管支などの調節に関与する。
- ムスカリン性アセチルコリン受容体:自律神経系や中枢神経系で働く。
- ドーパミン受容体:運動、報酬、認知などに関与する。
- オピオイド受容体:痛覚や情動、報酬系の調節に関与する。
- ロドプシン:網膜で光を受容する。
- 嗅覚受容体:多数の化学物質を匂いとして識別する。
GPCRはヒトゲノムにおける最大級の膜受容体群であり、感覚、生理調節、神経伝達に広く関与する。 多くの医薬品がGPCRまたはその情報伝達系を標的としている。
07 / REFERENCES
参考資料
- IUPHAR/BPS Guide to PHARMACOLOGY: G protein-coupled receptors
- NCBI Bookshelf, The Cell: Cell Membranes
- NCBI Bookshelf, Molecular Biology of the Cell: Membrane Proteins
- Yang et al.: GPCRs: advances in structures, mechanisms and drug discovery